喫茶店グラフィティー余話

  • 2020.06.30 Tuesday
  • 11:06

 昨年4月から数年ぶりに札幌市内の喫茶店を取材で廻ってみて思ったのは、人口約190万都市札幌の喫茶店に於けるコーヒーのレベルの高さは、大都市東京を別にすると、全国一じゃないかということ。しかもこの業界には若い世代も足を踏み入れていて、まるで求道者のように真剣勝負で味に挑んでいる。その真摯な姿勢に、思わず心打たれたものだ。

 なかでも新鋭三羽烏と呼びたいのが、白石区本郷通7丁目の「Cafe Hino」、同じく白石区で地下鉄東西線南郷通18丁目駅から徒歩5分の「コーヒースタンド28」、そして地下鉄東豊線福住駅から徒歩3分の「クラクションコーヒーロースターズ」である。

 

 真っ赤な外壁が目印の「Cafe Hino」は、ひっきりなしに車が行き交う国道12号と水源地通りの交差点角に立つ小さな喫茶店。店主の平野一政さん(33・当時)は、学生時代に札幌市内のとある喫茶店で飲んだ一杯のコーヒーに感動して、この世界にのめり込んだ。行きつけの喫茶店で修業を重ね、独立したのは26歳の時。そんな平野さんが一滴にまでこだわってネルドリップで淹れるストレートコーヒー600円は、苦みや雑味が一切ない。コーヒーならではという味わいの最後にふわっーと甘みが味蕾に到達し、完璧なまでの旨さである。一杯のコーヒーに賭ける情熱に、頭が下がるというものだ。

 

 次の「コーヒースタンド28」は、名前からして立ち飲みの店と思い込んでいた。ところが訪れてみると、倉庫を改装した店内は意外に広く、天井も高い。窓が天井近くにあるせいか、採光も良く、開放感あふれる空間である。店主の山口江夏さん(39・当時)は、埼玉県出身。大学時代には宮越屋珈琲などに通い、卒業後はコヒー豆を販売する会社へ就職。やがてスペシャルティーコーヒーの魅力に惹かれ、独学で学んだ後、2013年にこの店をオープンした。ドリップコーヒーM410円は、店頭に並ぶ自家焙煎のスペシャルコーヒーから好きな豆を選べる。一番人気はグァテマラだけれど、ほかにエチオピアなど常時10種類は揃う。「最高の一杯をお客様へ」というだけあって、やはり目の前で繊細な技を見せながら淹れてくれる。店名の「28」は、父親が好きだった野球選手・江夏の背番号から命名したというのもイイ話だなあ。

 

 さて、どん尻に控えた「クラクションコーヒーローターズ」は、まさかこんなところにと言いたいほどの住宅街にひっそりと佇む。店主の中谷陽さん(33・当時)は、北見工芸大学を卒業後、東京出建築関係の仕事へ就く。つまり、理系という訳だ。その頃に通っていた喫茶店で飲んだ一杯のエスプレッソからコーヒーの虜となり、退職して都内の自家焙煎店で修業を重ね、札幌へUターンした。この店は、2017年の暮れに開店したばかり。コーヒーはー、すべてスペシャルティーコーヒーの豆を使用。ハンドドリップ、もしくはエアロプレスから選べ、値段は均一でホット500円、アイス600円。ユニークなのは、スイーツに「きんつば」「豆大福」など和菓子を出すこと。それも近所の知る人ぞ知る名店「田島庵」から仕込み、「少し苦みのあるコロンビアには和菓子が意外に合うんですよ」と話す。コーヒーに金つばや大福をセットするセンス、理科系ならではなのだろうか。ともあれ、この3軒のカフェを訪れてみると、旨いコーヒーは後味も良いことがきっとわかるだろう。3軒のどれも、令和の名店だ。

 

 

 

 

 

 

 

休息の日曜日

  • 2020.06.28 Sunday
  • 18:07

 久しぶりに、JR桑園駅の裏手にあり、自宅から歩いて5分の温泉施設「北のたまゆら」に出かけてみた。日曜の午前中であることとコロナのせいか、やはり入浴客は少なかった。が、天井が高く広々とした湯舟は、開放感があってとても心地良い。露天風呂もあってリラックスでき、腰に手を当てなかったものの、フルーツ牛乳を飲み、最後は髪にドライヤーを当ててお仕舞とした。巣ごもりのせいで、本やDVDなどで普段以上に酷使してしまった目にも、少し休息を与えられた気がする。都市のど真ん中にあるこういう施設、何とか頑張って欲しいなあと思う。

 ついでに、近くに春ごろオープンしたという「ホーマック」にも立ち寄ってみる。いつも巨大なイオンの建物を見慣れているせいか、割にこじんまりとしていて買い物はしやすい。デザインの好きなトイレ用品を見つけ、初買いをする。こういう普通のことが、少し前まで思うようにできなかったことを考えると、コロナ前の生活がいかに自由であったかがわかる。しかし、コロナ前には、もう戻れない。今後のことを考えると、暗澹たる思いだけれど、平常心を失わずに自分のできることをするしかないだろう。

 休息の日曜日を過ごす度に、またこの1週間、良い仕事をしなければと思う。

 

 

 

映画館の暗闇で

  • 2020.06.21 Sunday
  • 19:04

 コロナ禍でご無沙汰していた映画館へ、土曜の夜、久しぶりに出かけた。作品は「ストーリー・オブ・マイライフ 若草物語」。駅前のシネコンは、ほとんど人が居なくて館内で映写技師さんと二人だけならちょっ―辛いなあと思ったが、カップルが3組に一人客も加わり、何とかなった。席は一つ置きにして、1階のエレベーター乗り場では整然と並べるよう工夫されていたが、如何せん入場者が少ない。もう少しで戻ると思うけれど、寂しい状況だった。が、映画館の暗闇に入り込んだだけで、「私の居場所はやはりここだった」と思えるほど気持ちがリラックスできた。しかも、作品は、私が幼い頃から何度読み直したかわからない名作「若草物語」の映画化。男兄弟(兄が3人)で育った私は、長女メグに憧れ、次女のジョーに共感し、ちゃっかりやのエイミーに呆れたものだ。そして、姉でも妹でも良いから、姉妹が欲しいと無いものねだりをしたことが懐かしい。

 エリザベス・テイラーが出演した昔の作品も良かったが、今回は作家志望の次女ジョーを中心に据え、現代にも通じる働く女性の生き方を描き、主演したアイルランド出身の女優シアーシャ・ローナンが演技力抜群で実に魅力的。脚本も良くできていて、上映時間135分が少しも長く感じられない。セリフは少なく、情景描写も良く、衣装デザイン。も素晴らしい(衣装部門でアカデミー賞受賞)。実に映像的で、映画とは何かを分かっている監督の作品は、安心して観ていられる。映画館の大スクリーンならではの楽しみ方が出来て、とても満足した。

 映画館の下の書店では、直木賞候補作で、浦河出身の馳星周著『少年の犬』〈文藝春秋)を買い、少し前に読み終えた。短編の連作集で、私の好みは「老人と犬」かな。数年前に読んだ『ゴールデン街コーリング』(この著者は新宿ゴールデン街で内藤陳が営んでいた酒場「深夜プラス1」でアルバイトしていた)という小説も好きだったけれど、さりげなく男ならではの情感を映し出すところが魅力だ。ハードボイルドに徹しきれないところも…。そしてもう一冊、犬と一緒に買ったのは猫の本。北大路公子の日記文学『ロスねこ日記』(小学館)。いろんな所で目にするけれど、この人のエッセイは威勢が良くて、とても面白い。まとめて読んでみたいと思っていたので、これを手始めに読むつもり。

煮しめ大好き

  • 2020.06.17 Wednesday
  • 10:37

 幼い頃は、「煮しめ」が苦手だった。なんたって色気がない。ワラビの焦げ茶にフキの青、それにコンニャクのグレーだもの。それに較べて、「暮らしの手帖」なんかを急に読め始めた大正生まれの母が、見よう見まねで作る赤いケチャップのかかったオムライスや緑のグリーンピースが可愛いチキンライスなどの洋食が、ちゃぶ台に登場すると、煮しめの勝ち目はなかった。

 ところが、年を経ると、母の煮物の味が恋しくなるものだ(これってマザコンの男性陣みたい)。時々、無性に食べたくなるが、外食では無理なので、最近は自分で作るようにしている。先日は、いつも思うように出来ない煮しめにチャレンジした。新冠で牧場を経営する友人が居て、毎年、とれたてのワラビをどっさり送ってくれる。ワラビ好きの私は、それをお浸しにしたり、みそ汁の具にしたり、今年も堪能した。が、しっかりアク取りの済んだワラビの束が冷蔵庫に少し残っている。そこで、フキがあれば、久しぶりに煮しめにしたいと思う。すると、「ワラビがあればなあ」という友人が居て、庭に京ブキが生えているという。そこでワラビとフキをトレードすることになり、彼女はしっかり茹でて、持ってきてくれた。フキの皮むきだけは勘弁してほしいと言われたけれど、私は意外に皮むきが好きだ。縦にスーッと剥けると、快感を覚えるからだ。

 それはともかく、ワラビとフキに、コンニャクとさつま揚げを加えて、広口瓶に残っていたダシ汁(味噌汁用)を投入し、コトコト煮ると、とても美味しく仕上がった。うーん、こんなに上出来なのは、久しぶりだ。京ブキが細く柔らかく、食べ頃だったことも良かった。しかし、味の勝因は、カツオと昆布の一番ダシではなく、煮干と昆布の庶民的なダシのせいかもしれない。などと、どうでも良いことを考えているヒマがあったら、仕事の原稿を書かなくちゃ。マズイ、締め切りだ。

 

憧れのラブミー農場

  • 2020.06.14 Sunday
  • 15:50

 高校2年生の時、「東京のプリンスたち」(1959)という短編をひとつ読んだだけで、深沢七郎の大ファン となった。都会に住む若者の倦怠感を実に上手に掬っていて、当時の私は心をわし掴みにされた。以来、ずっとファンであり続けている。世の中にこの作家の熱烈ファンは多いので、今さら語るのもおこがましいけれど、とにかく生き方が面白い。傑作「楢山節考」(1956)を発表して作家になる前、日劇のミュージックホールで「桃原青二」(40歳)という芸名でギターを弾いていた。65年(51歳)で、埼玉県菖蒲緒街へ移住し、若者二人を引き連れて「ラブミー農場」を開く。幼い頃から百姓になるのが夢で、晴れた日は土を耕し、雨の日はステレオのボリームをあげてレコードを聴くという「晴耕雨音」の生活に入った。71年(57歳)、東京・墨田区東向島に今川焼の店「夢屋」を開店。手づくりの味で好評だったが、人気イラストレーター横尾忠則の包装紙を目当ての客が多すぎて厭になったこともあり、閉める。

 私の友人がこの深沢ファミリーの一人で、彼によると、深沢さんはご飯はいつもかまどで薪を燃やして炊き、送られてくる作家の新刊も次々とくべていたという。人気作家であっても容赦なくかまどに放り込み、とりわけ三島由紀夫の新刊などは装丁がきらびやかでハードカバーなので裂きにくく、「燃やしにくい」と文句を言っていたそうだ。燃やさなかった本は、白石かずこの詩集と名前を忘れてしまったけれど、とある作家の本だけだったそうだ。

 そういえば、深沢ファミリーの友人に「深沢先生が種イモにしたいから北海道のジャガイモを送って欲しい」と頼まれたことがある。そこで私は、ジャガイモだけでイイという彼の頼みを押し切って、いつもお願いする「土の会」の菊池さんに頼んで、カボチャを無理やり加えてもらった。東京へ行く度に水っぽいカボチャの不味さに辟易していたので、北海道のカボチャの旨さを自慢したかっからだ。これは80年代半ばの話である。すると返事は、「ぜひ、再び送って欲しい」だった。我が意を得たりとすっかり喜んだものの、先ほどの菊池さんに『もう出荷の時期は過ぎていて、同じ状態で美味しいカボチャは送れない」と断られてしまった。その頑固なまでの誠実さが、私には反対に嬉しかった。以来、「土の会」には今も秋になると、本州方面も含めてお願いしている。なぜ今頃、こんなことを思い出したかというと、ITの進化でがんじがらめにされている昨今、なんだか「土へ還りたい」という思いが募って来たからである。時を経ても変わらない世界がそこにあり、未来を考えるには欠かせないことが多い気してならない。

 

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