日本のカミュ、開高健。

  • 2020.04.21 Tuesday
  • 15:05

 開高健の名作短編『パニック』を初めて読んだのは、藤学園で英文学を学んでいた学生時代だった。ということは、半世紀も前のことになるだろうか。この小説は、大繁殖して野や街にあふれるネズミの処理を通して、保身に走る役人の無能さと愚かさを痛烈に風刺している。当時、カミュの『ペスト』を読んだばかりだったので、「開高健は日本のカミュだ」と思い、当時の学生新聞に青臭い原稿を書いた覚えがある。

 物語のラスト、ネズミは群れをなして海へ向かうのだけれど、開高健は農学者との対話で「120年たつと、またササがみのってネズミがでてくるわけでしょう? つまり連中は死んだのじゃなくて、ただ潜伏期に入っただけなんだと考えていいわけですね」と主人公に語らせる。今読むと、『感染症の世界史』を書いた石弘之さんが、「人類の歴史は20万年ですが、微生物は40億年を生き抜いてきた強者です」と語っている言葉と妙にフィットする。そしてまた、いつの時代も組織で汲々とする人間の愚鈍さは変わりないことを、改めて知らされる。だからこそ、最後に猫に向かって主人公がつぶやく「やっぱり人間の群れにもどるよりしかたないじゃないか」というセリフが、50年を経た今も胸を打つ。長い年月を経ても古びない小説のことを、名作というのだろう。

 

コメント
コメントする








    

calendar

S M T W T F S
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031 
<< July 2020 >>

selected entries

archives

recent comment

recent trackback

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM