喫茶店グラフィティー余話

  • 2020.06.04 Thursday
  • 13:36

 昨年の4月~今年の4月上旬まで、朝日新聞夕刊で「さっぽろカフェグラフィティー」を連載していた。グラフィティーシリーズの第1冊となる「さっぽろ喫茶店グラフィティー」の初版発行は2006年だが、もともと喫茶店に通い詰めていたのは1985年まで。その後は酒場へ入り浸っていたから、昨今の札幌市内の喫茶店事情については浦島太郎に近い。それがよっこらしょと重い腰を上げて、2019年から市内の喫茶店(カフェ)を廻ってみると、進化しているなんてもんじゃない。スペシャルティーコーヒーという名の下に求道者のごとくコーヒーに邁進する若者や有名店から独立して個性的な店を営む中堅どころ、はたまたカフエめしが主の店など千差万別に進化していた。驚かされたと同時に、コーヒーの味のレベルの高さに、感服させられたものだ。

 さまざまな店を経て、最終回のひとつ前に、仲間から薦められながら訪れる機会の無かった「宮越屋珈琲パリアッチ」を、ようやく取材することが出来た。すると店主の蔵隆司さんは、3日後(3月20日)に閉店するという。しかもクラシック音楽好きの蔵さんは、「喫茶店グラフィティー」を世に出す契機を作ってくれた私の友人で元タイムスの論説委員だった宮内令子さんと中学時代の同級生で、作文の出来を競い合った仲という。関東方面で文化振興に携わり、定年と同時に札幌へリターン、退職金を丸ごとつぎ込んでこの喫茶店を造ったという蔵さん。しかし、彼が戻って来た時、令子さんは死にいたる病でもう亡くなっていた。それを知って、「とても残念だった」と繰り返し話す様子が、まるで初恋の女性を偲ぶようで、心にジーンと沁みた。

 ともあれ、スクリーンのように大きな窓から正面に藻岩山麓、右手に円山が眺められるこの店、外観も内観も素晴らしい。店舗デザインが、伝説の喫茶ともいうべき「ELEVEN」をはじめ、「北地蔵」「ホールステアーズカフェ」などを手掛けた今映人さんだけあって、どこか懐かしい山小屋の雰囲気が漂う。初めて訪れたこの店で、珍しいことに私はカプチーノを頼んだ。エスプレッソと泡立てた牛乳に繊細なココアとシナモンのパウダーが入ったこの一杯、まさしく極ウマだった。なにしろ自家焙煎の豆は、蔵さんが宮越屋珈琲の総帥である宮越陽一さんと共同で開発し、ガテマラやブラジルなどを混合。イタリア製マシーンを使って、独自に淹れているそうだ。しかし、再び訪れても、この美味しいカプチーノは飲めないと思うとガックリ。

 ところが、後でわかったことだけれど、この店を引き継いだのは、カフェ取材をした中でベスト10に入ると思ったほど素敵な「喫茶つばらつばら」オーナーの出村舞さんであるという。なんと「喫茶つばらばらクラシック」と名を変え、4月16日にオープンしている。私は未だ訪れてないが、彼女なら佐藤珈琲の焙煎豆を使ってネルドリップで丁寧に淹れた旨いコーヒーを出してくれることだろう(カプチーノがあるかどうかはわからないけれど…)。ともあれ、幾つもの偶然が重なって知り合えたこの店、ここに書かずにはいられなかった。

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